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2022年10月、岸田首相の所信表明演説を機に、突然注目されはじめた「リスキリング」。5年で1兆円の予算を投じる計画についても話題となりました。
注目はされているものの、多くの人はどのように捉え、学んでいけばよいのか分からず、もやもやとした気持ちを抱いているかもしれません。
今回は、リスキリングとは何か、リスキリング推進の背景についてを解説します。
この記事を読むと、私たち労働者はなぜリスキリングが推進されているのかがわかり、リスキリングに取り組むために何が必要かを理解できることでしょう。
リスキリングとは
2021年の経済産業省の資料では、リスキリングは以下のように定義されています。
近年、デジタル化によって新しい職業ができたり、従来から存在する職業であっても仕事の進め方が変化したりしています。
そのような仕事に従事するのに必要なスキルを習得する意味で「リスキリング」という言葉が使われることが増えているようです。
リカレント教育、アンラーニング、生涯学習との違い
リスキリングと社会人の学びに関するキーワードとの意味の違いについてご説明します。
リカレント教育
政府広報オンラインでは、リカレント教育の意味を以下のように説明しています。
これまでは、一旦社会に出てしまったらもう学ばないという人も多かったと想像しますが、現代は社会環境変化が早いため、仕事に必要な知識やスキルの継続的なアップデートが不可欠になってきています。
リカレント教育とリスキリング、社会人が仕事で求められる知識やスキルを学習するという意味では同じです。さらに、リカレント教育では学び続けることや学び直し、リスキリングでは新たにスキルを習得することという意味が含まれている違いがあります。
アンラーニング
アンラーニングとは、使えなくなってしまった知識やスキルを捨てて、新しいものに入れ替えることを指します。日本語では「学習棄却」とも訳されます。
脳の中にある知識やスキルを整理し、以前使っていたけれど今は使っていないものを一旦捨てるのがアンラーニング。新しい知識やスキルを取り入れていくのがリスキリング、というふうにイメージするとわかりやすいかもしれません。
生涯学習
政府広報オンラインでは、リカレント教育と生涯学習の違いについて、以下のように述べられています。
「リスキリング」というキーワードが注目されたきっかけは?
リスキリングが注目されたきっかけを、首相の所信表明演説と内閣府の発表から説明します。背景には、何とか賃上げを実現したい首相や政府の意図が見えます。
「人への投資と分配」として、政府が5年で1兆円支援
「リスキリング」が社会で注目されはじめたのは、2022年10月の岸田首相の所信表明演説での発言からではないでしょうか。
岸田首相は、構造的な賃上げに向けてこのように表明しました。
賃金上昇実現に向けた「三位一体の労働市場改革」
リスキリングが注目されたきっかけとして、内閣府が発表した労働市場改革が挙げられます。
先に述べた、リスキリングに対して「5年で1兆円」支援を行うという所信表明演説の元になった方針のことです。
日本の賃金水準は長期にわたり低迷しており、構造的賃上げの早急な実現が求められています。2023年に内閣府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2023」では、「三位一体の労働市場改革による構造的賃上げの実現と「人への投資」の強化、分厚い中間層の形成」を提示しています。
三位一体の労働市場改革とは
- リスキリングによる能力向上支援
- 個々の企業の実態に応じた職務給の導入
- 成長分野への労働移動の円滑化
「三位一体の労働市場改革の指針」では、リスキリングについて以下のように述べられています。
職務給の導入については、勤続年数に応じて給与が上がる時代が終わっていることが背景にあります。従業員には、働きながら新しいテクノロジーやビジネスモデルを学んで仕事の生産性を向上したり、成長が期待される分野で活躍したりすることが期待されています。
リスキリング支援の具体策については、ページ下部でご説明します。
リスキリングが推進される背景とは
リスキリングが注目されるようになったきっかけは理解できたものの、いざリスキリングと言われても、自分ごととしてはまだピンと来ない方も多いのではないかと想像します。
続いては、リスキリングが推進される背景には何があるのかを考えてみます。
社会環境とテクノロジーのトレンド変化
まず、現代の社会環境下で、企業が生き残り続けるためには、劇的に変化し続けるテクノロジーやビジネスモデルをいち早くキャッチアップし、ビジネスに貢献するというサイクルを継続することが重要になっていることが挙げられます。
「仕事の未来レポート2023」によると、2027年までに約23%の仕事が変化し、6,900万件の新たな仕事が創出、8,300万件の仕事が失われると予測されています。
「仕事の未来レポート2023」では、不確実性の満ちた現在と未来の仕事へのシフトについても述べられています。
急激な少子高齢化による労働力不足とデジタル化の両立
出典:総務省統計局「人口推計(令和5年(2023年)5月確定値、令和5年(2023年)10月概算値) (2023年10月20日公表)」
2023年、世界の人口は過去最多の80億人を超えた一方、日本の人口は年々減り続けています。今後出生率が上がる期待も少ないため、人口減少により高齢者を支えられるだけの労働力が維持できなくなることも懸念されています。
目下、企業では、業務効率化や仕事の取り組み方の問題解決や新たな価値創出などに、デジタル化が不可欠です。どのような職種に就いていても、デジタルツールやシステムを使いこなせるよう、スキルの習得が必要になってきているのです。
企業の成長と賃上げの実現
出典:リクルートワークス研究所「世界の賃金・経済状況を比較する――日本経済は1人負けなのか」
欧米主要国ではここ30年で賃金が上昇している一方、日本では30年間ほとんど賃金が上がらないままです。物価上昇に賃上げが追いつかず、消費を控える傾向にあり、再びデフレになる恐れが出てきています。
所信表明演説の内容からは、リスキリングで新しいスキルを獲得し、新たな職業や職務に就くことで企業が成長し、賃金上昇のサイクルに入るということが期待されているようです。
リスキリングの普及の現状は?
日本では取り組みが始まって間もないリスキリングですが、現時点でどのくらい普及が進んでいるのでしょうか?
2022年7月、パーソル総合研究所が発表したリスキリングに関する調査結果を元に、リスキリングに関する個人の実態についてご説明します。
正社員のリスキリングの経験者は3割前後
20~59歳の正社員3,000名のうち、新しいツールやスキル、未知の領域の知識などを学んだとする「一般的なリスキリング経験」のある人は3割前後とあります。
また、デジタル領域の新しい技術やデータ分析スキルなどを学んだとする「デジタル・リスキリング経験」のある人は2割程度とされています。
リスキリングへの取り組みが盛んな業種や職種には特徴あり
出典:パーソル総合研究所「パーソル総合研究所、リスキリングに関する調査結果を発表」
リスキリングが盛んな業種は、「情報通信業」「教育、学習支援業」「金融業、保険業」、職種別では「IT系技術職」「経営・経営企画職」「営業推進・営業企画職」「商品開発・研究職」「企画・マーケティング職」などの特徴があるようです。
出典:パーソル総合研究所「パーソル総合研究所、リスキリングに関する調査結果を発表 デジタル領域のリスキリング促進には、『キャリアへの展望』が重要 2022/07/21」
政府主導のリスキリング支援策は
リスキリングを推進する政策に呼応した施策は、いくつも打ち出されています。ここでは厚生労働省による施策をご紹介します。
事業主向けの助成金
人材開発支援助成金は、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
中でも「事業展開等リスキリング支援コース」は、新規事業の立ち上げや企業内のDX化、グリーン・カーボンニュートラル化などで新たな分野のリスキリングが必要な場合に活用できます。
助成を受けるには、雇用する労働者に対して、職務に関連した専門知識や技能を習得させるための職業訓練等を、計画に沿って実施する必要があります。
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金」
個人向けの学び直し支援
厚生労働省委託事業のキャリア形成・学び直し支援センターでは、個人(在職者)、企業・団体、学校関係者向けに、ジョブ・カードを活用して様々なキャリア形成支援や学び直し支援を無料で行っています。
▼関連ページ
ジョブ・カードとは?制度や活用メリット、作り方について解説
2024年度からはハローワークに学び直し窓口を設置
2024年度からは、ハローワークで学び直しに関する相談ができるようになります。これまでは離職者向けの職業紹介がメインだったことを考えると、大きな役割転換です。
出典:厚生労働省「令和6年度厚生労働省予算概算要求の主要事項」79ページに「在職時からの継続的な支援を行うリ・スキリング推進相談支援事業(仮称)等の実施」の記載あり
個人がリスキリングに取り組むために必要なことは
リスキリングの必要性を理解できたところで、具体的に取り組むために必要なことは何かを考えてみます。
将来どのような働き方・生き方をしたいのかを考えること
リスキリングを推進したい政策は理解できたとしても、何を学び直すのかについては、個人が将来どのような働き方・生き方をしたいのか?というキャリアの問題です。
個人が将来どうなりたいかが明確になっていなければ、どれだけ豊富な学習メニューや補助金で後押しされたとしてもリスキリングが進むとは考えづらいでしょう。
学びを継続する意志
新たに何かを学び直すには、まずは過去から蓄積してきた知識やスキルを捨てることを覚悟する必要があるかもしれません。これはなかなか大変なことです。
特に、終身雇用制度をベースに長年にわたって多くの経験を積み、評価と処遇を得てきたシニア層が、これまで培ってきた知識やスキルを捨て、主体的にリスキリングに取り組むのは困難を伴うことが容易に想像できます。
さらに、学び直しを継続するとなれば相当の覚悟が必要ですし、身につけるとなればなおのことです。
キャリアコンサルティングなど学び直しに向けた工夫
リスキリングへの取り組みが個人に委ねられても困難だとすれば、そもそも自分はこの先どんな働き方や生き方をしていきたいのかをキャリアコンサルティングによって自律的に選択できるよう、支援の拡大が必要でしょう。
加えて、学び直しを一緒に歩むラーニングコミュニティづくり、ひとつの企業や組織に依存したキャリアが前提にある組織風土の変革など、学び直しを後押しする施策を充実させる必要があります。
参考:
キャリアカウンセリング協会「人的資本経営におけるリスキリング推進~『世界一学ばない国』日本の学びの実態とキャリア支援のヒント~」(2023年10月)
リクルートワークス研究所「リスキリングとは? ーデジタル時代のスキル再開発ー」「Works 180 労働力不足社会vol.4 リスキリング迷子ニッポン」
キャリアコンサルタントの新たな役割・機能とは?
キャリアコンサルタントの主な役割は、労働者の働くことにまつわる悩みや不安の相談に対応することですが、リスキリングの推進により新たな役割や機能が追加されてきます。
具体的には、相談者の長期的なキャリアを見据えて、何を学び直しするのか、どのような能力をどのように獲得・強化するかについても支援するスキルの習得が必要になっています。
▼関連ページ
キャリアコンサルタントとは?資格取得までのステップと試験合格後の手続きを解説
まとめ
最後に、リスキリングについてまとめました。
・リスキリングとは職業に必要なスキルの獲得
・リスキリングの対象スキルはデジタル関連
・企業の成長と賃上げ実現が推進背景のひとつ
・政府の「人への投資」や5年で一兆円支援で注目
・リスキリングに個人で取り組むのは至極困難、コミュニティ整備などは不可欠