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ふせんを見ながら話す女性たち

近年、「キャリア開発」に関する取り組みが注目されています。人手不足の状況下で企業が成長を続けるためには、従業員のキャリア自律を支援し、多様な人材が潜在能力を生かして活躍できる環境を提供することが求められています。

今回はキャリア開発が注目される理由、キャリアの専門家であるキャリアコンサルタント視点でのキャリア開発プログラムの設計方法について解説します。

この記事を読むと、キャリア開発に取り組む重要性がわかり、キャリア開発プログラムを設計する具体的な手順や取り組むべきことが理解できるでしょう。

キャリア開発とは?

まず、「キャリア」という言葉の意味から説明します。

厚生労働省のキャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントを説明するサイトでは、「キャリア」は以下のように定義されています。

「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すものです。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。

出典:厚生労働省「キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタント

「キャリア」はある時点での仕事や成果を意味するものではなく、働くことを通してさまざまな経験を積み重ね、自らを高めていくという一連のプロセスを意味しています。

次に「キャリア開発」の意味を説明します。
「キャリア開発(キャリア・ディベロプメント)」とは、キャリアの発達・開発の様をいい、日本の心理学やカウンセリングなどの専門家の間では「キャリア発達」「職業発達」あるいは「進路発達」という訳語をあてている場合もあります。

これは知的発達や身体的、情緒的、社会的発達と同様に、人間の発達の一側面として職業的発達があるという考え方に基づいています。

職業選択や職業適応で代表される職業的行動(人と職業のかかわり合い)は、一時点で突然起こるものではなく、一生涯にわたる一連の発達過程を経て発達し続けるものであるという考え方です。

その発達過程はいくつかの段階に分けられ、それぞれの段階にはその段階特有の課題があり、その課題を達成しながら人は成長するという視点です。

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.27より引用

▼関連ページ
「キャリア」とは?支援の専門家であるキャリアコンサルタントが解説

キャリア開発が注目される理由とは

オフィスビルと人々の抽象的イメージ

ここからはキャリア開発が注目される理由について詳しく説明していきます。

①「終身雇用」や「年功序列」という雇用制度の崩壊

従来の日本企業では終身雇用、年功序列といった雇用制度が前提にあり、新卒で入社した会社で昇進しながら定年まで働くことが一般的でした。

企業にとっては従業員のキャリア形成を積極的に考える必要はなく、従業員にとっても社内での昇進を目指すことがキャリアアップであり、企業がキャリアを保証してくれたのです。

しかし終身雇用、年功序列制度は崩壊し、ジョブ型雇用や成果主義が導入されるようになりました。これにより従業員には高い専門性とアウトプットが求められるようになり、企業としても従業員のキャリア開発に積極的に取り組む必要性が高まってきたのです。

②働き方や価値観の多様化

従来の日本の雇用制度の崩壊に伴い、転職が一般的になり、雇用形態も多様化しました。副業や起業、フリーランスとして働く選択肢もあります。ワークライフバランスを重視した働き方や在宅勤務など働き方に関する希望も多様化しています。

自分のキャリアを企業任せにせず、働く目的や仕事に対する価値観を明確にし、自らのキャリアについて主体的に考え始める人が増えてきました。

企業としても従来のように一律で従業員のキャリア開発を考えるのではなく、従業員の希望も考慮して個別にキャリア開発をする流れに変わってきました。

③IT技術の発展やグローバル化

IT技術の発展やグローバル化により、従来のビジネスモデルや産業構造が大きく変化しました。事業の変化に伴い、従業員に求められるスキルも多様化してきています。

従業員それぞれが自分のスキルを見直したり、リスキリングしていく必要性が増しています。企業としても従業員の自律的なキャリア形成をサポートする必要が生まれました。

企業主体のキャリアから個人主体のキャリアへ

企業が主導して異動やジョブローテーション、昇進・昇格を決めることが一般的だった時代から、働く個人が自らのキャリアについて主体的に考え、キャリア形成に取り組んでいくこと、すなわちキャリア自律が求められるようになりました。

ここからは個人主体のキャリア形成に取り組む際に参考になる考え方を紹介します。

①プロティアン・キャリア

アメリカの心理学者ダグラス・ホールによって提唱された概念で、社会や環境の変化に適応して、仕事や働き方を柔軟に変えていくキャリアモデルです。

「プロティアン」とはギリシャ神話のプロテウスから名づけており、「変幻自在」であることを意味します。

ポイントはキャリアの主体者は組織ではなく個人にあること、キャリアの目的は組織での昇進や権力ではなく、個人の自由や成長であること、キャリアの成果は地位や給料ではなく、個人の心理的な成功であることです。

②「計画された偶発性」理論

アメリカの教育心理学者ジョン・D・クランボルツが提唱した理論です。
クランボルツは「個人のキャリアは、偶然に起こる予期せぬ出来事によって決定されている事実があり、その偶発的な出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、力に変えることができる」と述べています。

さらに、「偶発的な出来事を意図的に生み出すように、積極的に行動することによって、キャリアを創造する機会を生み出すことができる」としています。

「計画された偶発性」理論では、キャリア上のさまざまな出来事や機会を創造し、活用できるようになるためには、「好奇心」「持続する」「柔軟でいる」「楽観的に考える」「リスクテーキング」という5つのスキルを発達させることが大切とされています。

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.170-p.171より引用

③キャリア・アンカー

アメリカの心理学者エドガー・H・シャインが提唱した概念で、個人が選択をしなければならない時に、絶対に放棄することのできない「欲求・価値観・能力など」のことで、その人の核となるものです。

「アンカー」とは船をしっかりと停留させるための錨のことです。つまり、人のキャリア選択の際に最も大切にしているもの、譲れないもの、その人のキャリアの積極的定着促進要因といえます。

シャインはキャリア・アンカーは8つのカテゴリーに分類することが可能としています。

  1. 専門コンピタンス Technical / Functional Competence
    特定の分野で自分の能力や技術を発揮し、自分の能力を活用することで自分らしさを確立すること。

  2. 経営管理コンピタンス General Managerial Competence
    組織の中でさまざまな人の力を結集し、その成果に責任を負い、信頼に応えること。

  3. 自律(立) Autonomy / Independence
    組織のルールや規制に縛られず、枠組みを自分で決め、自分のやり方で仕事を進めていくこと。

  4. 安定 Security / Stability
    キャリアを安定させることによってリラックスし、仕事に満足度をもつこと。雇用保障、年金、退職手当等の経済的安定を得ること。

  5. 起業家的創造性 Entrepreneurial Creativity
    何か新しいものを創りだすこと。障害を乗り越える能力と意気込み、リスクを恐れず何かを達成すること。

  6. 社会への貢献 Service / Dedication to a Cause
    暮らしやすい社会の実現、他者の救済、教育など、価値のあることをなし遂げること。

  7. チャレンジ Pure Challenge
    一見解決困難と思える問題の解決に取り組むことや、手ごわい相手に打ち勝とうとすること、あるいは難しい障害を克服しようとすること。

  8. 全体性と調和 Lifestyle
    個人的な欲求、家族の要望、自分の仕事に求めるもののバランスや調整をうまくとること。
出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック1』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.148-p.150より引用

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キャリアパスとは?組織でキャリアを積み重ね、自らを高めるヒントをキャリアコンサルタントが解説

キャリアコンサルタント養成講習GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム

キャリア・ディべロプメント・プログラムはこのように設計される

キャリア・ディベロプメントプログラム 設計の5ステップ

実際にキャリア開発プログラムを設計する際に、どのような手順で何を検討すればよいのでしょうか。ここからはGCDF*が提唱するキャリア・ディベロプメント・プログラムの設計方法を5つのステップに分けてご紹介します。
* GCDF(Global Career Development Facilitator)・・・キャリア・ディベロップメントを促進するための米国認定資格。

Step1 ニーズ分析


ニーズ分析は、5つのステップの中で最も重要です。優れたプログラムを開発するため、プログラム開発者は、参加者のニーズやプログラムの目標について十分な知識を身につけます。

具体的には、まずは参加者となる人のニーズに関する情報を集めることから始めます。参加者になる人自身、専門家や進行中のプログラムの参加者、スタッフなどから集めた情報を言語化します。

ニーズの収集を行う際、そのニーズをもっている人・グループはどんな属性・背景をもつ人たちなのかを併せて理解しておくことが大切です。そうすることでニーズの分析を行う際、属性ごとの共通するニーズを把握したり予測することができます。

Step2 プランニング

プランニングとは、そのプログラムで実現、達成すべきことは何かを明確化し、目的・目標に合ったプログラムを設計し、実施・運営プランやツールの設計・制作等の具体的な準備を行うことです。

プログラム開発者は、プログラムに参加者を合わせるのではなく、参加者にプログラムを合わせていく意識をもつことが大切です。どのようなプログラムが適切かは、参加者が求めている情報やスキルによって異なります。

そのうえで、プログラムに論理的に一貫性をもたせることを意識し、目的に合わせてプログラムの流れを決め、各パートにふさわしい個々のアクティビティを構成します。

講義とアクティビティのバランスをとる、外部講師・ゲストスピーカーを活用するといった工夫により、プログラムに変化を組み込みます。

Step3 プラン評価

設計したプランを「実現可能性」と「効果面」から評価します。日程、人員、実施場所、ファシリティの有無等の物理的な事情や資金面の観点を含め、実施に向けて配慮しておくことはないか、プランを評価・検証しておきます。

Step4 実施・運営

実施・運営にあたっては、プログラムの目的に合うニーズをもち、関心をもって参加してくれるであろう人々に届くように、プログラムの募集広報をします。

トレーナーとして実際にプログラムを実施・運営・評価する際は、プログラムの進行に常に注意を払い、参加者一人ひとりの理解度や到達度を継続的に評価しながら、臨機応変に対応します。

Step5 再評価~変更・修正・実施

再評価にあたっては、オブザーバーからのフィードバックや、参加者アンケートなどを利用して、目的や目標の達成度はどうか、という観点で評価を行います。クライアントニーズや外部情報などを常に収集しながら、継続的にプログラムの見直しを行っていくことが大切です。

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック2』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.17-p.31より引用

従業員向けキャリア開発プログラムの導入を検討している企業様へ、キャリア支援の専業機関ならではの法人向けサービスをご案内いたします。
キャリアカウンセリング協会「法人向けサービス」

キャリア支援の専業機関ならではの法人向けサービス

キャリアコンサルタントとして活躍する

資料を見ながらミーティング

ここまでの記事を読んで、キャリア・ディべロプメント・プログラムの設計やマネジメントについてもっと専門的に学び、キャリアコンサルタントとしてキャリア形成を支援したいと感じた方もいるかと思います。

ここからはキャリアコンサルタントとしての活動内容や、今後期待される活躍の場について解説します。

1対1の面談に加え、キャリア・ディべロプメント・プログラムの設計やマネジメントも行う

キャリアコンサルタントというと相談者との1対1の面談をイメージする人が多いかもしれません。しかしキャリアコンサルタントは、関連機関との連携を含めたクライアントに提供するサービスの設計とマネジメントも行います。

キャリアコンサルタントが所属する機関や地域などによっても、クライアントのニーズはさまざまであり支援内容も変化します。

たとえば一口に「従業員とのキャリア面談」といっても、年次、年齢、管理職昇格、役職定年などの企業内キャリアの節目での面談、キャリア研修後のキャリア面談、キャリア相談室のような常設型のキャリア面談のようにさまざまなパターンが存在します。

多様なクライアントのニーズに合わせて、関連機関や専門家と連携しながら、さまざまなサービスを設計し、自らそのサービスを実践するとともに、全体をマネジメントする力がキャリアコンサルタントに求められています。

出典:『GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム テキストブック2』株式会社リクルートマネジメントソリューションズ、2020年、p.8より引用

GCDFではキャリア・ディべロプメント・プログラムの設計を体験できる


キャリアコンサルタント養成講習である「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム」では、講義の最終日にキャリア・ディべロプメント・プログラムを設計します。

受講者は5人前後のグループに分かれ、大学生や中高年、女性などグループごとにテーマが与えられます。グループでは、テーマごとの相談者ニーズに合ったプログラムを設計し、発表します。

キャリア・ディべロプメント・プログラムの設計は、養成講習の中で学んだ知識やスキルを活かせる集大成でもあり、プログラム作成には自然と力が入ります。

受講者は、養成講習を修了した後も、それぞれの実践の場でキャリア・ディべロプメント・プログラムの設計やマネジメントを行い、活躍しています。

講座カリキュラムと料金

キャリアコンサルタント養成講習GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラム

今後も活躍の場が増えていくことが予想される

近年、キャリアコンサルタントは、研修講師やファシリテーター、組織内キャリア形成制度の設計や運用など、活動の幅が広がってきています。

少数ではありますが、キャリアコンサルティングの資格を活かした活動として「執筆・ライティング」「営業・販売・マーケティング」「経営コンサルティング」「広告・広報・デザイン」など、異分野への活用も示されています。

「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」(令和4年6月策定)では、キャリアコンサルタントに言及がなされました。特に「伴走支援」をキーワードに、その担い手としてキャリアコンサルタントが期待されています。

さらに、そうした「伴走支援」の仕組みを構築するにあたっても、キャリアコンサルタント等の支援人材を活用することが望まれています。個別の相談支援のみならず、企業等の組織に対して意見を述べることができる存在としてキャリアコンサルタントが期待されていることもうかがえます。

出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「労働政策研究報告書 No.227 第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査

▼関連ページ
キャリアコンサルタント の仕事とは?仕事内容や活躍の場、年収について解説

まとめ

最後に、キャリア開発についてまとめました。

  1. キャリア開発は、知的発達や身体的、情緒的、社会的発達と同様に、人間の発達の一側面として職業的発達があるという考え方に基づいている
  2. 従来の日本的雇用制度の崩壊、働き方や価値観の多様化、IT技術の発展やグローバル化を背景にキャリア開発が注目されている
  3. キャリア開発においても、企業主体のキャリアから個人主体のキャリアへ考え方が変わってきている
  4. キャリア開発プログラムは「ニーズ分析」「プランニング」「プラン評価」「実施・運営」「再評価」の5つのステップを踏んで設計される