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近年、世界的な潮流を受けて「人的資本経営」が注目され続けています。
今回は、人的資本経営の定義や注目が集まる理由についてご説明します。
加えて、キャリアコンサルタントが人的資本経営の実現にどう関わるのかについても触れていきます。
この記事を読むと、人的資本経営の基本が理解でき、キャリア支援者の方ならどのように企業や従業員に寄与していくべきか、わかるようになるでしょう。
人的資本経営とは?
経済産業省のサイトには、人的資本経営について以下のように説明されています。
人的資本経営に注目が集まる理由
「人的資本経営」に注目が集まっている理由について、3つの視点から考えました。
投資家の中で無形資産への投資需要が高まっている
まず1つめには、投資家が企業の市場価値を見極める上で、無形資産への投資の重要性が上がっていることが挙げられます。
経済産業省が発表した「通商白書2022」では、企業が行う投資の分類および無形資産の定義をこのように説明しています。
加えて、経済成長をもたらすにはイノベーションが不可欠であり、企業が競争を優位に進める上での無形資産の重要性について、このように述べられています。
上記にもあるように、日本企業が無形資産への投資割合を高めていくことが経済成長につながるという点で、重要であることがわかります。
「人的資源」から「人的資本」への転換ー「人材版伊藤レポート2.0」より
注目される理由の2つ目には、従業員の知識や能力を「資本」としてとらえる「人的資本」への転換が挙げられます。
2020年9月に経済産業省が発表した「人材版伊藤レポート2.0」には、社会環境変化のスピードが激しく、経営戦略と人材戦略を連動させるのが困難な中では、従業員が持つ知識や能力を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」という考え方が重要である旨が書かれています。
「既に持っているものを使う、今あるものを消費する」という意味を含んだ「人的資源」から「状況に応じて必要な人的資本を確保する」考え方へ。
人材に投じる資金は価値創造に向けた投資へと転換されてきています。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」
2023年3月期決算から人的資本情報開示が義務化された
注目される理由の3つ目には、2023年3月期の決算より、有価証券報告書での人的資本情報の開示が義務付けられたことが挙げられます。
2022年8月に内閣官房が策定した「人的資本可視化指針」では、開示事項が例示されています。
有価証券報告書への開示が義務付けられたことにより、ステークホルダーの相互理解が生まれ、ひいては社内の組織力の高まりや投資家からの期待値向上が見られ、企業価値が上がることが期待されています。
人事の専門家が考える、人的資本経営に重要な視点とは
ここでは、人事の専門家が人的資本経営をどのように捉え、またどのような点について課題を感じているのかご紹介します。
人事、企業内教育、キャリア、キャリア支援領域を専門に活動されている慶応義塾大学名誉教授 花田光世先生は、厚生労働省の「セルフ・キャリアドック導入支援事業推進委員会座長」としても活躍され、人的資本経営との融合についても取り組まれています。
出典:厚生労働省「『セルフ・キャリアドック』導入の方針と展開~従業員の活力を引き出し、企業の成長へとつなげるために~」
2023年2月にキャリアカウンセリング協会にて行われた花田先生のセミナー「キャリアアドバイザーの役割パートXIX:人的資本経営とセルフ・キャリアドックの融合」では、人的資本経営について触れられていました。
花田先生は、「人的資本経営が今のままの形で進むことでよいのか。過去にもあった短期的な成果・結果主義の再来が起きてしまったらどうするのかと懸念している」という趣旨の発言をされています。
加えて、「(人的資本経営が進むことで、短期的な成果・結果主義が再来してしまうのではないかという)懸念の解決には、キャリア自律、キャリア自律支援、ダイバーシティ開発といった、現場ですでに取っている指標を活かすことが重要である」とも話されています。
人的資本情報の開示に必要な指標は多岐にわたるため、人事が取ることは困難。キャリアコンサルタントが現場で収集し、人事に共有するのがよいとのご意見をお持ちです。
また、人的資本経営の開示事項のために新たに指標を収集するということでなく、すでにキャリアコンサルタントが現場で収集している指標が活用できる点についても述べられています。
出典:キャリアカウンセリング協会 花田光世先生「キャリアアドバイザーの役割パートXIX:人的資本経営とセルフ・キャリアドックの融合」(2023年2月)
人的資本経営の実現に向け、キャリアコンサルタントはどのように関わるのか?
組織の人的資本経営を実現するためには、資本となる人=従業員がイキイキと働き、活躍をすることが要となります。従業員自身も、その組織の中でイキイキ働くことができれば、自己実現に向かって進んでいくことができます。
従来、個人のキャリア支援に携わる活動がメインだったキャリアコンサルタントですが、法改正や人的資本経営が叫ばれる中、その役割が変わってきています。個人の支援にとどまらない、組織の中でのキャリアコンサルタントの活動とはどのようなものでしょうか。
キャリアカウンセリング協会が開催している人的資本経営に関連したキャリアコンサルタント更新講習*のご紹介も交えながらご説明します。
*キャリアコンサルタント更新講習・・・国家資格キャリアコンサルタントの資格更新に必要な学習のこと。
成果につながる「セルフ・キャリアドック制度」の導入推進
「セルフ・キャリアドック」について、厚生労働省のサイトに以下のように説明されています。
人的資本経営が叫ばれる中、企業におけるセルフ・キャリアドックの導入も本格化しました。
キャリアコンサルタントには、組織の人的資本経営と従業員個人の自己実現の間で、バランスをとって支援しながら双方の橋渡しをする役割が期待されています。
キャリア施策を成果に結びつけるには、経営方針に基づいた「組織の人的課題」を見立て、それに応じた「人事施策」を企画・導入し、「キャリア自律」を推進する各プロセスで押さえておくべき観点があります。
一方で、経営方針に沿った十分な人的課題の見立てや、課題と施策の相関性の吟味、自社の風土・特性を考慮した運用をしないままに施策ありきで「セルフ・キャリアドック」を導入し、形骸化してしまっているケースも散見されます。
キャリアコンサルタント更新講習「【CCA】人的資本経営におけるセルフ・キャリアドック実践」では、人的課題の見立て方やキャリア研修・キャリア面談といった一連の施策を効果的に実施するポイント、経営陣を動かす報告会実施方法など「成果につながるセルフ・キャリアドック」の技能を学びます。
従業員のポテンシャルを引き出す、リスキリングも含めた支援
社会が急速に変化し、働く人の価値観や働き方が個別化・多様化するなかで、企業の成長と従業員個々の成長がマッチする状態になるのは、なかなか簡単なことではありません。
キャリアコンサルタントは、個人のキャリア支援をするためにカウンセリングスキルを習得し、活動しています。
組織と個人が同じ方向を向いて成長できるために、キャリアコンサルタントのカウンセリングスキル、対話する力が重要になってきます。
キャリアコンサルタントは、従業員に対して、第三者の視点から、仕事や今後のキャリアについて改めて考える支援を行います。従業員は、自分のキャリアに即して仕事の考え方や捉え方を更新していくことができるでしょう。
具体的な方策には、知識やスキルをさらに身につけるリスキリングや人的ネットワークの構築などがあるでしょう。
「【CCA】個と組織を活かす人的資本経営時代のキャリアコンサルティング技能講習」では、具体的なケースを用いて「人的資本経営」の考え方に基づき、相談者を支援していくための具体的な知識や技能を、実践的に体得します。
【CCA】個と組織を活かす人的資本経営時代のキャリアコンサルティング技能講習
まとめ
最後に、人的資本経営についてまとめました。
- 人的資本経営とは人材を「資本」として捉える経営のあり方を指す
- 人的資本情報の開示義務などの理由で注目が集まっている
- 人的資本経営の実現にキャリアコンサルタントの活動が寄与できる